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患者との関わりで看護者が抱く陰性感情について考える

─ 看護者へのアンケート調査を実施して ─

尚生会 加茂病院
安田のき子

T はじめに

看護者は患者の24時間中最も身近に存在し日常生活全般に関わっているため、患者の不安やさまざまな訴えの窓口となっている。
時には患者からの暴言、暴力、妄想の対象となり、患者への陰性感情を抱くことがある。
看護者が患者に陰性感情を抱いた場合、感情が表出されてしまうことは良くない事なのか、というテーマは近年、とりあげられており、今後、看護研究を進めていく中での課題となっている。
日頃の患者との関わりの中で、その患者に適した対応や看護ができているのか、看護者の陰性感情が表出されるのは看護者として相応しくないのだろうかという思いから、当院の看護者はどのような患者への関わりにストレス感じているのかを調査し、それに対して看護者は今後どのような姿勢で看護に望む必要があるのかを考えていった。

U 研究方法

1).目的

精神科看護において看護者はどのような患者との関わりにストレスを感じているのか を調査し、今後の関わり方、看護のあり方を考える。

2).調査期間

2002年2月1日〜2月15日

3).調査対象

当院に勤務する看護者 151名

4).調査方法

独自で作成したアンケートに秘密厳守についての文書を記載し無記名で、記載を求め、回収箱と共に各病棟へ配布し回答134名(回収率88.1% )について集計を行った。

V アンケート結果

@ ストレスを感じたとき患者様への対応に変化はありますか? ストレスを感じたとき患者様への対応に変化はありますか?

A どのような患者との関わりにストレスを感じますか?
(回答者数108名)

  回答数
暴言・暴力行為に及ぶ患者 37
攻撃的な患者 25
幻覚・妄想の活発な患者 18
不安感の強い患者
操作的な患者
無為・自閉的な患者
その他
痴呆のある患者
精神発達遅滞の患者
アルコール物質依存患者
抑鬱状態の患者
パニック状態の患者

B ストレスを感じるときの対応は?
(コメント数64名)

対応 合計
口調がきつくなる、悪くなる 24名
口数が少なくなる、冷たい態度 12名
傾聴できない 11名
落ち着いて行動、言動に注意する 9名
明るい表情に努める 2名

C ストレスを感じるときに心がけていることは?
(コメント数58)

落ち着いて対応する 23名
傾聴する 16名
他の看護者と一緒に対応する 12名
患者が興奮している時は時間をおいて関わる 4名
患者の気持ちが落ち着くまで待つ 3名

D あなたのストレス解消法は?(複数回答可)
(上位より)

1 寝る
2 おしゃべり
3 ショピング
4 温泉や旅行
5 自宅で静養
6 その他、趣味を楽しむなど

E 相談相手は?(複数回答可)

1 友人(同僚 93名
2 家族 62名
3 上司 25名
4 なし 10名
5 親戚 7名
6 その他 4名
7 医師 1名

 今回の調査で、当院の看護者は、ストレスを感じた時に患者への対応に変化があるかという質問を行ったところ、看護者の多くは、ストレスを感じた時に何らかの変化があるという結果であった。
 またどのような患者との対応にストレスを感じるかという質問を行ったところ、「暴言・暴力行為のある患者」「攻撃的な患者」「幻覚・妄想のある患者」への関わりが上位に挙げられた。その時の看護者の対応として、「口調がきつくなる」「口数が少なくなる」という回答が上位に挙がった。
 ストレスを感じたときに、どのような対応を心がけているのかというコメントを求めたところ、患者からの言動に「落ち着いて対応する」「傾聴する」という回答が多く挙げられ、看護者は自己の陰性感情と向き合いながら患者に肯定的な姿勢で日々、関わっていくよう努力していることが推察された。
 また、アンケートの中で相談相手や自分のストレス解消法の記入を求めたところ、相談相手には「友人(同僚)」「家族」「上司」が上位を占め、それぞれのストレス解消法が挙げられた。

W 考察

 看護者は「暴言・暴力行為のある患者」「攻撃的な患者」「幻覚・妄想のある患者」との情緒的な関わりを避けたいと感じる場面に遭遇することが多い。
看護者は常に患者の苦痛に共感し陰性感情は表出されてはならないと意識されており、自己の陰性感情という、人間である以上避けることのできない感情の狭間で、それを上手く処理する能力が要求される。
 患者との関わり自体が看護であり、関わりのあり方が患者へ良くも悪くも影響を及ぼすため、看護者の精神的な負担となりやすい。看護者が自分の中にある陰性感情を容認すれば解決するとは限らない。
 それぞれの患者に応じ、適した看護を提供していくためには看護者自身が健全な精神状態を保つことが大切である。1)
 患者に共感するということは安心感、信頼感をもたらす看護の基本的な姿勢であるといわれているが看護者の「悲しみ」「怒り」といった陰性感情もまた、看護者同士のなかで共感していくことによって「落ち着いた対応」「傾聴する」姿勢につながるのではないかと考える。
 看護者同士が共感するという事は自己の対応を見つめなおしたり、情報の共有や客観的な判断で患者との関わりの方向性を見い出していくためにも必要である。

X おわりに

 看護者同士だけでなく他のチームともオープンな関わりをもち疑問に思う事、患者との関わりで陰性感情を抱いた事、精神医療を巡る事件、事故など個々の情報交換やカンファレンスの場を積極的に設けていく必要がある。
 相手をケアしているときは、同時に自分をケアしてもいる。ケアは誰のためでもなく、ほかならぬ自分のためでもある。
 看護者の精神的な負担を軽減させるだけでも看護者の心のゆとりから患者との関わり方が更に改善され、看護の質の向上につながっていくのではないかと考える。
 最後に、アンケート調査と看護研究にあたり、御協力いただいた皆様へ心より感謝致します。

《引用文献》

1)看護職とストレス;臨床看2 Vol2000 P239
2)武井 麻子  : 感情と看護 ;医学書院・P262

《参考文献》

1)トラベルビー(長谷川浩):人間対人間の看護

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